涙腺が緩むシチュエーション(ネタバレ) ― 2015年09月24日 07:20
自分は人と比べて涙もろい人間だと思う。一緒にテレビ番組を見ているメンバーの中で,自分だけが涙目になっていることは,これまでにもよくあった。結構恥ずかしい瞬間のため,気づかれないようにする努力をいろいろと重ねてきた。
そっと指で涙を拭うことは基本として,さりげなく人より前に出て顔が見られないようにしたり,目を大きく開いて涙をこぼさないようにしながら涙が乾くのを待ったり,飲みたくもない水を飲みに行って涙を拭いたりと,密かに手段を講じてきたものだ。
そもそも,泣くことが好きなのだ。涙を流すことができるコンテンツを求めて積極的に関わろうとしている節がある。涙することで得られるカタルシスを味わいたいのではないかと思う。
これまでに涙した数々の感動場面を思い返すと,自分にとってのツボが存在していることに思い当たる。それは,様々な物語で装いを変えながら繰り返される,人を感動させるための基本要素でもあると思う。
以下は自分の「泣ける」シチュエーションである。念のために言っておくとこれらの要素が入っていれば必ず泣くというわけではなく,ストーリー展開の中で,これらの要素に共感・共鳴をさせる作者の構成力や演出が必須であることは言うまでもない。
1 思い入れのあるものが死ぬ
これは,泣きの王道だろう。泣かせるためには一瞬で死んではいけない。死がそこにある状態で,エピソードを回想したり,本心を吐露したりすることを通して,聞き手を揺さぶる「何か」を残して死ぬ必要がある。
もしも,死んだことから始まる場合は,第三者のていねいな回想によって,死するものの生き様や本心が描写されることが求められる。
ここでいう「何か」は,2以降の感動要素を含んだもので「視聴者・読者」が共感していることがどうしても必要である。逆説的だが「デスノート」の主人公は,敗北のフラグが立ってから死ぬまでに多くの語りや回想があるが,死んでも泣くことはない。
2 かわいそう過ぎる
これもストレートな泣きだろう。死ぬ場合もある。
例えば,「火垂るの墓」。兄妹二人で力を合わせ,必死に生きようとしていた最中に訪れる妹の死。大切に守ってきた妹が死んでしまった後の兄の喪失感が,実感を持って迫ってくる。また、兄を慕い,共に生きようとした健気な妹の死は無条件に切ない。
「フランダースの犬」のネロとパトラッシュの最後もこのタイプである。
どちらの作品も死がやってくるが,かわいそうの中心は死ではない。「フランダースの犬」で言えば,落ち度のないネロが,町の人々の迫害を受け,行く場所もなく,一人教会で死ななくてはならないという理不尽さがかわいそうなのである。
「1思い入れのあるものが死ぬ」の場合は,かわいそうである必要がなく,そこが1と2の大きな違いとなる。
3 大切なものを守る
大切な何かを守ることに徹して行動するものにぐっとくる。「自己犠牲」「献身」「忠誠」という言葉がしっくりくるシチュエーションだ。互いの関係は,主従,上下,親子,恋人,友人,仲間等であることが一般的だが,必ずしも人間同士(または人のように振舞うもの)である必要もない。一方は動物であったりロボットであったりアイテムであってもかまわない。とにかく自分は二の次で対象を守るのである。守ることを目的に攻撃を行うこともある。
例えば「天空の城ラピュタ」。シータの叫びで覚醒したロボット兵が,しゃにむにシータの元に参じて守ろうとするシーンは白眉だと思う。ロボット兵が艦船の砲撃を胸に浴びて破壊され,崩れ落ちながらも,なお両腕を伸ばしてシータを守ろうとする様は,清らかささえ感じさせる。これを書きながらまた涙ぐんだ。
小説では,横山秀夫の「半落ち」が好きだ。主人公は何を守ろうとしているのか,何のために守ろうとするのかを探ることが物語の骨子になる。最後に明かされる真相には,深い慈しみを感じずにはいられない。
次回に続く…かもしれないが未定
青春恋愛ものにはまる ― 2015年09月07日 00:10
1週間のストレスを昇華させる方法の一つに,週末の読書がある。胸に迫るような感動や刺激は,潤いを失ってでこぼこした心をなだめてくれたり,たくましく育ててくれたりする。特によい小説に出会い,その作品世界の中に没頭できたときは,すすけた心を取り出して,新しいキラキラした心と取り替えたような気持ちになることさえある。
さて,一口に小説といっても,ファンタジー,推理,ミステリー,ホラー,SF,歴史,学園など,様々なジャンルがある。さらに「学園推理」とか「歴史ミステリー」とか「SFコメディー」など複数のジャンルをくっつけて言う場合も多い。中には新鮮さを打ち出すために,新しいジャンルの組み合わせをなかば強引に作ったと思わせるものもある。
こうしたジャンル分けは,読みたい本を選択するときの重要な手がかりとして大切なものだ。自分は読む本のジャンルが偏る傾向にあるので特にそう思う。例えば,ミステリーだけ続けて読むとか,SFだけ続けて読むとかそんな感じ。
そして,最近はまっているのが「青春恋愛もの」なのである。青春だけではダメだし,恋愛だけでもダメ。青春で恋愛にはまっているのだ。
最近立て続けに読んだ4冊の紹介。

1 三田誠広:いちご同盟

2 三秋縋:三日間の幸福

3 三秋縋:君が電話をかけていた場所

4 住野よる:君の膵臓をたべたい
男子と女子の心を通わせていく過程が,あるときはもどかしく,あるときはみずみずしく,あるときは悲しい。相手の気持ちを推し量り,思いやりながら悩む。素直な気持ちを押し隠し,さらけ出しながら徐々に結びつきを強めていく。そこがよい。こうした作品に触れたときに生まれるじれったさと憧れを渾然としたような感情が,自分をリフレッシュさせる。
もうしばらくはこのジャンルで楽しむつもり。
〈追記〉
当初,この作品紹介の中で「いちご同盟」を取り上げることにためらいがあった。それは,この4作品の中で「いちご同盟」が青春文学として傑出しており,他の「ライトノベル」といって差し支えない3作品と同列に並べることがふさわしくないと考えたからだ。作品のテーマに格付けするとすれば明らかに立ち位置が違うのである。
「いちご同盟」は,憧憬,哀愁,悩み,畏れなど,作中人物が紡ぐ心の陰影が,端的な文章の間から滲んでくる。状況描写と台詞回し,そして作品構成の巧さのために,テーマがぐっと胸に迫ってくるのだ。読後の満足度が高い。これは単純な物語のおもしろさとは別の基準だと思う。
今回はあえて,今の自分のこだわりである「青春恋愛もの」つながりで取り上げた。