レンタルコミックス ― 2016年09月04日 01:20
週末。幸いにも,尻に火がつくような仕事がないので,のんびりとした時間を過ごしたい。ツタヤで漫画を借りることにする。
近所のツタヤは,コミックス置き場に結構なスペースを割いている。一昔前の名作から最近映像化された話題の作品まで,バランスよく品揃えをしていると思う。そのため,以前は買い揃えて漫画を読んでいたものだが,現在はツタヤを書庫と考えて,レンタルで済ますようになった。僕は,コミックスをコレクションして愛でる趣味はないし,購入した時の費用と置き場所の負担も大きい。そもそも何度も繰り返して読むものではないので,読みたくなったらレンタルする今のスタイルで十分満足している。
書架に並ぶたくさんのコミックスの背表紙を眺めながら,作品を探す時間が面白い。子供の頃に読んだ懐かしの本を見つけて当時の感動を思い出したり,題名から内容を想像して好みに合いそうな本を物色したりすることはワクワクするものだ。
人気の本は,たくさんの借り手の要望に応えるために,同じ巻を数冊置いている。同巻が5冊も並んでいればかなりの人気と考えていいだろう。未知の本を選ぶとき,この同巻数は選択のための重要な要素になる。「人気があるのだったら,きっと面白いだろう」と。
さて,僕が行くツタヤでは,映像化されたコミックスだけを集めたコーナーがある。話題性があるだけに,ほとんどのコミックスが同じ巻を複数並べている。その数多のコミックスの中にすごい冊数を並べたコミックスがあった。

「ORANGE」。この夏アニメになった(らしい)少女漫画だ。
5巻で完結する短い作品だが,最終巻となる5巻目の冊数がなんと17冊ある。もちろん1〜4巻も1巻につき十数冊並んでいる。このツタヤの中では1巻あたりの冊数としては最高だ。もう圧巻である。これだけの品揃えを誇る作品ならば面白いに違いない。早速全巻をレンタルし,期待に胸を高鳴らせて読み始めた。
これは一言で言うと高校生の友情と恋愛を描いた漫画である。新学期。主人公の女の子のところに10年後の自分から手紙が届く。その手紙には,これからの高校生活で起きることが日記形式で書いてあった。誰と出会い,どんな出来事が起こるか。そして,その時どんな行動を取ってほしいか...。10年後に後悔しないための未来からのアドバイス。最初は手紙のことなど信用していなかった女の子だが,次々と手紙に書かれた通りのことが起こって,それが本物だと気づく。アドバイスは,やがて好きになる男の子に関するものだった。《10年後,男の子はここにいない。その男の子を支えてほしい》アドバイスに支えられ,ときに翻弄されながら過ごす友人たちとの貴重な時間。そして,運命の日がやってくる...。
うん。確かに面白い作品だった。ある時は嬉しくなり,ある時は辛い気持ちになり,登場人物に寄り添い共感しながら読むことができた。女の子を支える友人たちの姿に,清々しい気持ちで満たされることもあった。
でも.....。この店で同巻最高記録の17冊を叩き出すような名作かと言われれば,僕の中ではちょっと違う。恋愛漫画としても時間を扱う学園SF漫画としても,極めて普通の面白さだった。物語の中で個々のキャラクターに与えられた役割や個性,また,ストーリー展開やテーマに,この作品ならではと言えるものは感じない。しかし,新鮮味はなくても,安心して読める面白さはある。こうしたところが漫画家の腕なのだろうと思う。
と,全巻を読み終わってちょっと首を傾げた後に,僕ははたと気づいた。僕はおっさんだった。気持ちはいつまでも若いつもりでいたけれど,よくよく振り返ればまごう事なきおっさんなのだ。このコミックスは絵柄から素材からテーマまで中高生女子をメインターゲットとして書かれたものだろう。もう少し広く捉えれば,10代の少年少女が主な対象になるだろう。
1巻17冊もの人気を誇るこの作品の魅力を味わうために必要な感性は,すでに僕の中に無くなってしまったのだ。そう思うと,ちょっと寂しい気分になる・・・。
P.S.
と言いながら,名作は読み手の年代を問わないとも思う。この半年で一番面白かったコミックスは「四月は君の嘘」。ピアノとヴァイオリンが繋ぐ男の子と女の子の青春物語だ。読み進むごとに,これほど喜びや苦しみやせつなさに気持ちが翻弄された作品は,近年なかった。もしも未読の人がいたら,ぜひ読んでほしい。

レンタルコミックス最近の当たり! ― 2016年09月04日 18:28
前回,ツタヤのレンタルコミックスの話をした。1巻あたりの巻数が多い人気作が,必ずしも自分に取っての人気作ではない話。年齢,性別,経験によって興味関心や好みの有り様は人それぞれになることを思えば,大多数の支持と僕の嗜好が若干ずれることも当然ある。
一方,同じ理由で,1巻につき1冊しか並べていない扱いの地味な作品が,自分の好みにぴったりはまることもある。最近レンタルしたコミックスでは「怪談イズデッド」がそれだった。

この本はツタヤの新刊コーナーに1冊だけ置いてあった。多くの本は背表紙だけを見せて書架に収まっているが,これは表表紙をこちらへ向けて置いてあった。内容を紹介するポップまで付いている。それからすると1冊しかない本の中では,店で押している本だったようだ。
表紙の絵の勢いが気になり手に取った。パラパラと数ページ読んでみる。
「!...これは!」
数ページの飛ばし読みで,すぐに分かった。キャラクターの会話,動き,表情が生き生きと迫ってくる。これはまちがいなく面白い。大当たりの予感がした。
手にしたものは4巻だった。早速1〜3巻を探すことにする。ツタヤでは,少年漫画,青年漫画,少女漫画のジャンルごとに,題名の50音順で並んでいる。最初,少年漫画コーナーの「か行」の場所を探したがなかった。念のためにコーナー全体を見回るも,やっぱりない。なぜだろうと思って本の最終ページにある出版情報を見ると,なんと青年漫画コミックスだった。
やれやれと思いながら青年漫画コーナーに行って,また「か行」の場所を探す。しかし,ここでも見つからない。もしかして少女漫画のコーナーなのかと思ったが,表紙を見て「いやいやそれはない」と思い直す。とすると,店では4巻だけ仕入れて他の巻は仕入れていないのか?「いや,常識的に考えてそれもない。僕が店長だったら,そんなことは絶対にありえない」と考えて少し悩む。仕方がないので,1〜3巻は必ずどこかにあると信じ,青年マンガコーナーをしらみつぶしに回ることにした。
すると,あった。青年マンガコーナーの「か行」からずれたところにあった。各巻1冊ずつ。幸いなことに,誰も借りることなく全巻置いてあった。
この作品は,トイレの花子さん,てけてけ,動く人体模型など,学校の怪談には必ず出てくるだろう怪異たちにスポットを当てたギャグ漫画である。怪異たちの存在意義は,子供たちを恐れさせ,「学校の不思議」として不気味な噂を広めることだ。そのために,怪異たちは定期的に集まって話し合い,様々な対策を講じているのだが...。
出てくる怪異たちは,どれも個性的でキャラが立っている。タバコ呑みの不良娘だけど一番の常識人な花子さん。グループのリーダーで頼れるイケメンである一方,根っからスケベなてけてけ。子供たちから見られることに喜びを感じる変態でエロな人体模型。スクール水着を着用する巨乳で天然な萌えキャラのプールの霊などなど。
物語の中心は怪異たちの笑える悲哀と下ネタである。キャラの魅力と勢いでグイグイ引っ張っていく。起承転結がはっきりした構成と落ちのハマり方が心地よい。時々挟まれる女子キャラの恋ネタ萌えネタが,またいいスパイスだ。
現在,最も新刊が待ち遠しいコミックスだ。全く知らなかった面白い本にこうして出会えると嬉しくなる。ギャグ漫画好きの方には絶対お勧め。