シン・ゴジラに震える!2016年08月12日 02:50


シン・ゴジラ

 映画「シン・ゴジラ」を見た。

 映画館に足を運んだのは,3年ぶりのこと。宮崎駿監督のアニメ「風立ちぬ」以来だ。なぜこれほどご無沙汰だったかというと,テレビや雑誌の紹介で興味をそそられる作品があっても,映画館へ出かけた上に2時間も椅子に張り付けられることを想像すると,高まった気持ちも大抵しおれてしまうからだ。結果,見る映画のほとんどをレンタルDVDで済ますことになるのである。つまりは,結構なめんどくさがりなのだ。

 さて,そんな出不精がゴジラの新作に足を運んだ理由は二つある。

 一つ目は,よく見ているまとめサイトでちょくちょく話題にのぼり,興味が高まったからだ。ほぼ記事タイトルしか見ないのだが,「思った以上にゴジラ」「予想以上に面白い!」など概ね高評価だった。実績のある作品だけに多くの根強いファンを持つコンテンツのリメイクで,これだけの評価を得ることは異例と言っていいだろう。

 二つ目は,脚本・総監督が庵野秀明さんだったからだ。彼の作ったアニメ「トップをねらえ」「エヴァンゲリオン」は,大いに楽しんだ。存在感のある世界を構築する力と,テンポよくグイグイと物語を引っ張っていくエンターテイメント性を僕は高く評価している。また,特撮怪獣オタクとしても有名であり,その彼が作るゴジラとなれば期待せざるをえない。

 そして,「シン・ゴジラ」を見た。心が震えた!

 まず,ゴジラに与えられた役割がいい。人のなすことなどほとんど意に介さない,触れれば障る圧倒的な負の存在。はっきりした意図や知性を見せない惨禍の化身としての振る舞いは,凄まじい恐怖と絶望を投げつけてくる。正直なところ、街を縦断して被害を拡大していくゴジラの登場シーンは,3.11の大震災を重ねて気持ちが不安定になった。
(映画館から逃げ出したくなるような気持ちを必死に深呼吸して乗り切ったのは,ここだけの秘密......ちょっとトラウマ......)

 次に,ゴジラに対峙する人々が,それぞれの立場を示す群像としてテンポよく描かれていた点がいい。ヒーローが状況を打開していくのではなく,現在ある法律,制度,組織,装備を利用して,多くの人々が英知を結集する様に胸が高鳴った。

 そういえば,ネット上では「エヴァンゲリオンっぽい」という声が囁かれていた。なるほど,物語の構成,画面の作り,ゴジラの演出などにている点が多かった。特に,幾重にも飛び交う情報を収集・解析して作戦を決定し,明確な命令系統で動く組織の描き方は,明らかに庵野テイストだ。

 没頭していたために,2時間はあっという間に過ぎ去った。エンドロールが流れる間も,ほとんどの人が音も立てずに座ったまま。ちょっとした放心状態だったのではないかと思う。我に帰ると,しばらく固まっていたためか腰が痛い。ほっと息を吐きながら「もう一度このまま見たいなぁ」と思った。

 ところで,これまでに僕が見たゴジラ作品は一つだけある。それは,1998年公開のエメリッヒ監督版ゴジラだ。このゴジラは派手だった。見た目は巨大イグアナ系爬虫類。ビルの谷間を駆け抜ける高い運動性能を備え,隠れて不意を突く狡猾さも持ち合わせていた。対する軍隊にはヒーローに相当する主役がいて,個別のロマンスなども盛り込んである。そんなところがハリウッド映画らしかった。物量と力技とヒーロー的活躍でゴジラを駆逐する。これはこれでエンタメとしての魅力にあふれ,僕は好きである。

 それに対して「シン・ゴジラ」は,ゴジラを駆逐する作戦を立案,遂行していく過程を集団のドラマとして丁寧に描いた。それぞれの立場でやるべきことを行い,最終的には組織として対処しようするところが日本らしさと言えるのかもしれない。そして,問題の解決に向けて力を結集する人々の姿に僕は強く惹かれるのだ。