小川晴央著「やり残した,さよならの宿題」の評価2016年10月10日 01:31

 多忙を極めた10月初頭は,精神的に疲弊した。そこで,この3連休は「久しぶりに読書をして心を潤わそう」と考え,行きつけの本屋へ行った。連休でもやることは多いので,読書に使う時間は1日と決め,それにふさわしい本を探すことにする。こんなときは,ライトノベルだろう。

 僕は,ちょっとした時間を生かして手軽に楽しませてくれるライトノベルが好きでちょくちょく読んでいる。そのため,作品を追いかけている作家も何人かできた。そうした作家の一人に小川晴央さんがいる。

 小川さんはこれまでに2冊の本を出している。デビュー作「僕が七不思議になったわけ」と2作目の「君の色に耳をすまして」だ。どちらもライトな文体で読みやすい上に,暖かさと優しさと切なさを呼び覚ますような読後感があって,気分をリフレッシュさせる読書にふさわしい。

これまでの2作品

 小川さんの作品の魅力は,アニメチックに生き生き動くキャラクターと意表をつく作品構成だ。特に構成のうまさは「僕が七不思議〜」で顕著に表れていて,終盤で明かされる各章に散りばめられた仕掛けは,物語を楽しむ視点を再構築されるような意外性があって楽しんだ。

 そんなわけで,本屋に顔を出すたびに小川さんの新刊をなんとなく探していたのだが,この連休の探索でついにそれを見つけた。

 それが「やり残した,さよならの宿題」である。本を手に取って裏表紙のあらすじを見ると,次のような話だった。

文庫表紙

 小学生の青斗が住む海沿いの田舎町にはひとつの伝説があった。それはこの町にある神社にお願いすると,神様がやり直したい過去に「時渡り」をさせてくれるというもの。さて,青斗には鈴という大好きな女の子がいて,最高の夏休みをプレゼントしようとしていた。理由は,鈴が夏の終わりに引っ越してしまうから...。そんな二人は遊んでいた神社で一花さんと出会う。一花さんはなんでも見通す不思議な力を持っていて....
 
 小川さんは,今後に期待をしている作家なのだが,実は2作目を読んだ時に不安も生まれていた。それは,1作目に比べてエンタメ要素というか娯楽性を(おそらく意識して)減らした結果,物語としての輝きも薄れていたためだ。

 そして,今回のあらすじ。正直言って全く面白さを感じなかった。主人公が小学生という点がまず不安だったがまあ我慢しよう。僕の好きな重松清さんの作品のように,小学生視点であっても感情移入しまくりの素晴らしい作品はある。とにかく不安だったのは,あらすじにある設定やエピソードに,新鮮味や興味を抱かせる要素が全く見当たらなかったことだ。

 神様?小学生の夏休み?タイムリープ物?僕が期待していた小川さんは,作品を出すごとに輝きを失っていく作家さんなのでは...。この作品を読みたいという気持ちはほとんど湧いてこなかった。しかし,小川さんに対するこれまでの好印象を信じて「えい!」という気持ちでレジに向かった。

 さて,このように全く期待せずに読み始めたのだが,予想通り全く面白くなくて困った。一章を読み終えるまでに何度読むのを諦めようと思っただろう。もともと文章表現が上手な作家ではない。文章から立ち上る空気感や行間に宿る作品世界を読者の心に浮かび上がらせるタイプの作家ではなくて,キャラクターの魅力とエピソードで惹きつけるタイプの作家なのだ。それなのに,ていねいに状況や人物を描こうとして冗長になっている印象だった。1行で描写すべきところを3行もかけて描写しているように感じた。そのためなかなか物語が前に進まない。テンポが悪い。

 小川さんの作品に触れる最初の作品がこれだったら,間違いなく30ページあたりで読むのを諦めていただろう。ただ,これまでに読んだ1作目と2作目が,終盤の盛り上げで惹きつける作品だったためそれを信じて耐えていた。

 しばらく辛い時間を送ったが,二章まで読み終えたときには,だいぶ印象が変わってきた。キャラクターも出揃い,様々なエピソードが重ねられてきたので物語が安定し,作品を楽しめるようになっていた。読み進めるごとに頭の中にできてくる作品世界がだいぶ馴染んできたようだった。

 そして,三章から四章。クライマックスへ向かって駆け抜けていく文章とキャラクターたち。一人一人の行動原理が明確になり,気持ちは揺さぶられ続ける。涙もろい僕の視界は,ずっと歪みっぱなしだった。やっぱり小川さんは,物語の骨格となる仕掛け作りのうまい作家だと思った。

 「終わりよければすべてよし」とはよく言ったものだ。この本を読み終えたとき,序盤のマイナス印象は,僕の頭からほとんどなくなっていた。

 評価:

P.S.
 お気に入りの小川さんにお願い。各場面に散りばめていたキャラクターの所作や出来事について,最後に「あのときのあれはこれこれこうだったんだよ」とキャラクター本人にまとめて説明させるのは避けていただきたい。それは登場人物から読者への解説となり,興ざめしてしまいます。解説なしでも読者に伝わる暗示や伏線または,エピソードで暗示と伏線を回収することを期待しています。

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